2011年10月8日土曜日

【映画】パリ20区、僕たちのクラス[現代:entre les murs]

ミニシアター系で少しばかり話題になっていた、『パリ20区、僕たちのクラス』をDVDで見た。日本人からすればフランス=白人社会というステレオタイプで見がちだが、パリ20区というのはそんなイメージと真逆の、移民を中心とした多民族地域である。というより、すでにパリはニューヨーク並みに多種多様な人種が集う町となっている。この映画は、そんな20区のある中学校の国語(フランス語)のクラスの1年の話である。

国語、と言う時点で、我々日本人はめんどくさい読解やら文法やら、と言った内容を想像するが、授業の内容は我々の想像を遙かに下回るレベル。なんと、14歳にもなって初歩の単語(思う:croire)の活用さえ出来ない奴らばかり! 発音も文法も怪しい奴らが大勢。日本で言うなら小学校1~2年レベルとしか思えない有様だ。しかも、どいつもこいつも授業中に内職したり、関係ない質問をしたりとやりたい放題。学級崩壊なんて言葉がだいぶ前から日本でも言われていたけれど、ちょっとこれはレベルが違いすぎる。完全にカオスだ。

主人公はこの映画の原作者であり、実際に1年間の中学教師を務めた人物。こんなことが本当に起きていたのだという。ある教師はあまりの現状の酷さに教員室でヒステリーを巻き散らかす。しかし、皆がその理由を分かっているから、何も言えない。それぞれがいろいろなことを考えて、様々な手を打とうとしているが、誰一人として上手くやれて居る教師はいない。

世に言う「子供が酷いのは親のせい」というのも教師達にも気づいているのだろう、生徒の親たちを呼び出し生徒の現状を告げる。ところが、ある親はフランス語が全く分からず、通信簿に書いている内容を何一つ理解していない。ただ、この子はよい子です、を繰り返すばかりで、息子の問題行動に目を向けようとせず、学校との解決に向けた対話もままならない。またある親は、不法滞在で捕まり、強制送還が見込まれている。

それでもやらなくてはならないんだと、怒りを抑えながら授業を繰り返していても、向こうは子供とは言え、もう1人前の自我も芽生え始める年頃。教師の言葉尻を捕まえては、文句を言ったり、へりくつをこねたり、素直に言うことを聞こうとしない。どうしてそこまで協調性がないのか? いろいろな原因もあるのだろうが、見ていた自分に思ったことは、どうしようもなく精神年齢が低いと言うことだ。自分はやりたいようにやる、ただそれだけという行動規範を占めるのが子供達がほとんどだったように見受けられる。ある意味、規範でがんじがらめにする日本からすると自由にも見受けられるが、正直、日本ならば幼稚園児レベルだろう。

結局、教師は、年頃のセンシティブな子供の気持ちを捉えきれなくて、一部の生徒に「自分は目の敵にされている」という意識を持たれてしまう。そんなわだかまりを解こうと悪戦苦闘するが、結局、教師は怒りを抑えきれなくて、生徒を侮辱的に扱う言葉を使ってしまう。それを鬼の首を取ったように言い振り回る生徒達。子供は禽獣と言うがまさに、である。最後には、気に掛けつつもわだかまりを解くことが出来ず、ある生徒を退学に追いやってしまう。

そして1年。1年を通して彼らが何を身につけたか、それは驚くほど低レベルな物でしかなかった。ある生徒は学期末に、それまで従順に見えたけれど、実は言葉も分からなかったので、ほとんど何も学んでなかったと言い出す。バカンスにはしゃいで教室を飛び出す子供達。教室には、散乱する椅子。誰も直そうとしないその様子が、フランスの教育現場の崩壊を物語っていた。

ロンドン暴動で、移民2世の就労環境の酷さが、暴動を密かに準備していたことが語られているが、同じ事はフランスでも数年前に起こっていた。フランスは当時パリ市長だったサルコジによる強権的な制圧で暴動は拡大しなかったが、已然としてパリ郊外の治安悪化は問題となっていて、それが極右の台頭の原動力となっている。そうした就労環境に悪さの原因の一つとして、教育が問題となっているが、その現場がこれなのだから、一体どこから何を手を付けて良いのだろうか? と考えさせる映画だった。

なお、この映画はドキュメンタリーの体裁を取っているように見えるが、全て演技である。生徒達の演技が余りに自然なので、完全にドキュメンタリーと思い込んでいた。その点は評価に値するが、ここに生徒と教師の心のふれあい、というようなありきたりな感動のドラマはなく(タイトルやジャケットはそれらしく見えるように作ってあるが)、ただすれ違いと問題だけが後に残った。近年の日本人の堕落ぶりを見ると、日本の学校でもおそらくは同じような現状が有るのではないだろうか。





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