2000年発表の「The Construkction of Light」はADATというS-VHSテープ(家庭でテレビ番組を録画するのに使ってたVHSのちょっと豪華版とでもいえば良いか)を使ったデジタルレコーディングによって制作された。当時はS-VHSは放送用途でも多用されており、普及したメディアを転用して安価にデジタルレコーディングができるということで、ADATは90年代を通して大変使われた。現在テープを使うことはないが、ADATは規格としてのみ残っておりプロオーディオ機器もサポートを継続している。
オリジナルの「The Construkction of Light」 |
クリムゾンの40周年記念シリーズはオリジナルのハイレゾ版とサラウンド版を作ることが売りの一つであったのだが、このままでは2ミックスしか残っていないのでさてどうしよう?という話になったときに、パットが新しくドラムを録音しなおす、という解決になった。この結果、作品は新しい命を吹き込まれた。
一聴してわかるのが、パットのドラムがヘヴィネスを増していることだ。現在3人ドラムでやっているレパートリーを1人でやってみるというのも面白い試みだが(とはいえ録音時期からするとリハに上がる前かもしれない)、明らかにオリジナルドラマーとして、またクリムゾンの常とう手段としてレコーディング前のライブという手順を踏まなかったアルバムだったことから、アルバム発表後のライブで練り上げられたドラミングがここに結実しているとみることもできるだろう。
ドラムの音やプレイが変われば当然ミックスも変わるとばかりに、一聴してわかる程ミックスが変わっている。ギターもよりヘヴィさを増し、音像としては自作「The Power to Believe」に近くなっている。それもそのはず、一部でMachineも参加しているのだ。また、各曲間をサウンドスケープでつなぐなどして、オリジナル発表当時はProjecktでできた素材を寄せ集めた感があったものを、よりアルバムとしての統一性を増している。はっきりいって、オリジナルよりも良くなった。
かつてトレイ・ガンは最良のアルバムではないがベストは尽くした、と語っていたこのアルバム、今回のドラムパート差し替え&ニューミックスで新しい評価を手にすることができるかもしれない。
余談だが、ユニバーサルミュージックが、ニルヴァーナもエイジアもサッチモもビリーホリディもコルトレーンもテープを焼失してしまったという話が最近大きな話題になったが、過渡期のデジタルレコーディングの保存は今後の課題だろう。
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