2011年7月25日月曜日

大里俊晴 - 『ガセネタの荒野』




一言で言えば、唐突な再版だ。

著者・大里俊晴は、2009年11月17日に逝去した音楽学者である。本著は、彼の青春時代に活動していたバンド「ガセネタ」*1について綴ったもので、もともとは91年に洋泉社にて刊行されていたもので、著者の生前唯一の単著だ。内容は、浜野純・山崎春美という2人の天才に大里が圧倒され、加速し続けあらゆるものを削ぎ落とし続けた濃密な時間についての記録である。

私自身のプロフィールとも重なるが、大里氏は私の兄弟子であり、先生でもあった。かつて、知人から斯様な本を書いていることは知っていたが、あとがきに「古本屋のワゴンで10円で並んでいることを願う」*2というようなことを書いていらしいと聞いて、常々探していた。それが、渋谷タワレコに並んでいたのである。しかも新刊。まったく唐突といったらありゃしない。帰りの電車で恐ろしい勢いで読みふけり、最寄り駅のベンチに座ったまま一気に読破した。

感想を一言で言うなら、読まなけりゃ良かった、である。

内容がつまらないわけではない。破滅するしかなかった者たちの記録のようでもあり、そこから逃げ出した大里氏の後悔のようでもある。ガセネタの音楽を少しばかり聴いたことがあるが、そのあまりにも鋭い音は、本著での大里氏の切実な心情吐露*3とよく似た、刹那的な音だった。自殺的といおうか、あるいはチキンランのような、とでも言おうか。このようなものを誰が書ける? ここまで赤裸々な心情吐露をあけっぴろげにすることが誰にできる?

しかしそれだけに、なぜ今?という唐突感がぬぐえない。

ガセネタの音源が10枚組みBOXで発売されるからか? 死後、関係者によって大里の業績を世に残すためだったのか? そのいずれでもあり、いずれでもないのかもしれない。

だが、自分は山崎春美の題字による装丁など見たくなかった。死して2人は和解したとでも言うのか? 追悼文集*4の山崎の文章は、ほかの誰よりも美しかった。それはこう結ばれている。「ほんとうは二人で、ぼくと大里との二人で、見知った見知らぬ人たち、少女たち、女の子たちを、片っ端から犯すしかなかったんだ。ぜったい。それ以外に未来はなかった。(略)そしたら、ぼくもきみも浜野もみんな一緒にいられたのになあ。」 やっぱり破滅以外に道はなかった。だから、こんな幻滅はない。

本当は、「出会うべき者はいずれ会う」のであれば、それは唐突でもないのかもしれない。けれど、やっぱりそれは古本屋のワゴンで出会いたかった。1400円もの金を出して、彼らの過ごしたアングラの空気を追体験した気になるなんて、どれほど陳腐なことか。そんな疑念が払拭できずにいるし、一方でどんどん発行してもう歴史にしてしまえよ、とも思っている。

追悼文集を我が家のトイレにずっと置き続けているのが、せめてもの自分の弔い方だ。

<追記1>
7/26のDommuneにてガセネタ特集があり、山崎晴美が出演して、ガセネタの曲を歌ったという。山崎氏のパーソナリティは、下の脚注3と全く正反対で、自分がどのように見られるかなどに無頓着なのではないだろうか。

<追記2>
結局、ガセネタBOXを注文してしまった。さらに、ディスクユニオンの張り紙で今後「タコBOX」「大里俊晴BOX」も出るらしいことを知った。本文のように書いたが、もういっそうのこと、伝説から引きずり下ろしてしまえという気分に変わった。

*1 バンド名は頻繁に変わったという。「こたつに吠えろ」「て」など。
*2 あとがきを読んでみたが、そのような記述はなかった。また、とある女性に本書を捧げる、というようなことも書いてあったと聞いたが、その記述もない。再販にあたり、遺稿を元にしたとあったので、削られたのかもしれない。その理由は自分には知るべくもない。
*3 大里氏を語るときに、彼の自己滅却的な性格(シャイとも書かれている)が多く口にされるが、私の評価は逆だ。大里氏は根っからのロマンティストだ。自意識が過剰であるからこそ、自分を消し去ろうとするのだ。自分に無頓着なら、さらけ出された自分にどんな評価を下されようとも、まったく意に介さないはずである。
*4 一部書店やネット経由などで購入できると思う。こちらは題字がジム・オルーク。そんな風にサブカル著名人を引っ張り出してくる感覚には、どうもなじめない。

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