先週、経済学者の池田信夫氏が電子書籍ベンチャーを手がける会社「アゴラブックス」を立ち上げたことが、ネットで話題になった。以前から池田氏は、日本にも電子書籍の波が押し寄せていて、出版界の産業構造が変わろうとしているという主旨のことをブログ上で書いていたので、この展開は別に驚くに当たらない。
だが、「いったいどういうビジネスモデルなんだろう」ということが私には大きな疑問だった。池田氏は既刊本を電子書籍化する「著作権エージェントは出てこないだろうか」とブログで書いていたので、それがビジネスモデルと思ったのだが、「どこの馬の骨ともしれないベンチャーと組むよりも、自社でやってしまった方が利益率が良い」と出版社は考えるのが自然ではないだろうかと思っていた。そう思っていたら、J-castから興味深いニュースが出てきた。
http://www.j-cast.com/2010/03/07061675.html
まだ正式に事業展開を明らかにしたわけではないが、この記事をまっすぐに解釈するなら、彼らのビジネスモデルは「第3の電子書籍売り場を作る」ことだったわけだ。これは、既存出版社が抱える「アマゾンやアップルに流通を握られる」とか、「著者が出版社を通さずに直に本を売りだすのでは」という危機感に対応するものだろう。出版社の大同団結がうまくいかなそうだと言うこともあり、第三者の立場から冷静に状況を分析でき、且つ、技術的なノウハウを持っている、あるいはノウハウを持っている人たちを知っているアゴラブックスが入っていける余地がここにあったわけだ。
でも、これこそ池田先生が言う、ガラパゴス化のような気がする。既存の出版社の産業構造を維持させる方向に力を傾けているように、私には思えるからだ。出版界の流通構造を踏襲しない(=取り次ぎを通さない)ということは大きな意義だが、既存の本屋をそのままネット上に置き換えることを目指しているように見えて、そこにイノベーションは感じられない。
既刊本を本当に皆は電子書籍で読みたいのだろうか。たしかに、これはKindleで読めたら便利だよなという本は存在する。けれど、本当に電子書籍化の意義があるのは、電子書籍ならではの本なのではないだろうか。これまで紙では出てこなかったような本が電子書籍で出てくる、そしてそれが新しい需要を喚起する、それこそがイノベーションというものではないだろうか。
たとえばePub形式はスクリプトを仕込めないなど、インタラクティブな要素はあまり考慮していないので、フォーマット的には少しも新しくない。電子書籍はインターネットほどに新しくないのだ。よって、月並みだが、編集の力こそが著者と売り場の間に出版社が入りうる余地だと思うし、それは電子書籍時代になっても変わらないものじゃないかと思っている。編集が必要とされなくなれば、出版社は滅びるだけしかないだろう。
とはいえ、池田先生もまだおもしろいことを仕込んでいるかもしれない。今月の25日にアゴラブックスのビジネスモデルが発表されるという。月末にiPadも発売になると言うし、この3月は出版界にとって激動の1ヶ月になるのかもしれない。
P.S.ちなみに、アゴラブックスが提携を進めているという出版社は、魔法のiらんどを子会社化したアスキー・メディアワークスだと予想しているが、どうだろうか。池田先生もWebアスキーに連載を持ってるしね。
追記・5日にiPadは四月と発表が出ていたんですね。気がつきませんでした。
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