引退を表明したらしいロバート・フリップから、もはや最新音源を届けられることはないのではないかと思っていたのだが、唐突に新作が発表された。しかも、かつてのクリムゾンメンバーであるメル・コリンズとの共演であり、さらに"A King Crimson ProjeKCt"と銘打たれている。40th Anniversary seriesと同じDVD-AとCDのバージョンを購入してみた。
聴いた感想は一言で言うと、残念、である。まるで、ジャクスィクのソロアルバムのようだ。
もともとはこの作品は、フリップとジャクスィクとのインプロが元になっているらしく、DVD-Aにその元バージョンが収録されているが、それを聴くと本編と全く別物である。そこでは、フリップはほとんどサウンドスケープしか弾いていない。それが、このようにきちんとしたソングになっているというのは、おそらくはジャクスィクの作った楽曲に、インプロの素材を切り貼りして、ベース(トニー・レヴィン)とドラム(ギャヴィン・ハリソン)を足した、という作り方をしたのではないだろうか。当初、フリップはサウンドスケープしか弾いてないのではないかと訝しんだが、よくよく聴けば、彼特有のハンバッカーのロングサスティンサウンドが聞こえる。後で、ギターソロを足したのかもしれないが、今時Line 6あたりのシュミレーターでも作れるサウンドなので、ジャクスィクが弾いている可能性もある。
楽曲の質は悪くない。メロディ的に面白い展開をする曲もあるし、キングクリムゾンを思い起こさせるひねくれたリフも聴かれる。そういうところがフリップをして"A King Crimson ProjeKCt"と銘打たせるに至ったのかもしれない。
しかしだ。メンバー同士の共同作業によるマジック、かつての70年代のイエスやクリムゾンがやってきたような、ジャムセッションの中から素材を作り出し、皆で発展させていくという、メンバー間の相互作用がどうにも見いだせない。フリップのプレイは、ジャクスィクのソロ作品の素材でしかないかのようだ。イエスのアルバム「ユニオン」は、そうした共同作業が全く行えなかったことにより駄作となったが(これについては別のエントリーを上げる予定)、クリムゾンは80年代以降は一貫してリハーサルによるジャムセッションで楽曲を作ってきた。そのような共同作業が今回あったとはとても思えないし、他のプロジェクトもののようにインプロがそのまま収録されているわけでもない。それがきっと、この作品がジャクスィクのソロアルバムであるかのように聞こえてしまう理由なのだろう。
とはいえど、聴き所はある。楽曲は水準以上だし、ジャクスィクの声は平凡だが、陰鬱なメロディーには合っている。コリンズによる、メロディの合間を縫うような熟練のサックスプレイは、スターレスを思い起こさせる。レヴィンとハリソンのプレイは単なるセッションプレイヤーの域を超えて、魅力的なプレイを聴かせて作品に貢献している。フリップのギターソロが一番目立っていない。
結局、クリムゾンの名に期待しすぎたのかもしれない。おおよそ世間の評判も同じのようだ。フリップがクリムゾンの名前を付けなければ、評価は変わっていたかもしれない。興味を持たれた方は、DVD-AとCDのバージョンを購入することを強く勧める。上に書いたように、本作品の元となったインプロが聞けるからだ。ただし、大抵のDVDプレーヤーはDVD-Aを再生できるが、ほとんどのブルーレイプレイヤーはDVD-Aに対応していないので注意されたい。
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