これまたピアノトリオものの紹介なのだが、おそらく日本でこのアーティストの名前を知っている人はほとんどいないと思う。自分も知らなかった。某南博氏に、バークリー時代の友人としてCDを聴かせてもらって知ったのだが、何とも言えないドリーミングな音が気になり、買って聴いてみたら、これが大当たり!
このアルバムタイトル、ジャズに詳しい人ならピンと来ると思う。そう、デイブ・ブルーベックの「Time Out」と同じく、変拍子ものの曲が多くを占めているのだ。
たとえば1曲目。"On Green Dolphine Street"はジャズ好きなら誰でも知っているスタンダード。これを5拍子でやっている。といっても、いわゆるプログレ的な(=クラシック的な)3/4+2/4*1を余り感じさせないように、ピアノのメロディーがルバートっぽくフレーズを奏で、ドラムはビートをかっちり刻むのでなく、優しく寄り添うようにアクセントを付けている。一聴してこれを5/4と分かる人はなかなかいないんじゃないかな。
同じ事は8曲目の"Come Rain Or Come Shine"にも言えて、こちらは3拍子。サスティンペダルを多用して、流れるようなサウンドを実現させている。ECM的にエコーを深くかけたものはあっても、こういうサスティンペダルを多用した演奏って、有りそうでなかなか無い。
そのほか、自作曲の2曲目"Ellipse"は、ピアノの左手が5/8で右手が7/8で、35小節ごとに周期が合うという、まるでキング・クリムゾンの"Discipline"のようなことをやっているのだ。ちなみにベースは6/8×5+5/8で35小節目で一周、ドラムは35ビート。さすがにソロの部分は5/8になるが、これもまたジャズでは珍しい試み。
などなど、複雑な変拍子を多用した作品なのだが、プログレにありがちなガチガチなキメがなく、どの楽器もアクセントの置き場所を自由自在に操り、隙間を作ることで、聴き手に変拍子を意識させず、たゆたうようなサウンドを実現させているのだ。私も散々ジャズは聴いたけれど、類似の作品を知らない。
しかも、ググって知ったのだが、この人、なんとベーシストでもあるそう。世の中才能のある人というのはいるものだ。
これだけ良いのに、なんと販売はCD Baby(アメリカの自主製作ものの流通業者)。う~~~ん、惜しい。日本のジャズ関係者はもっとこの人に注目して、CDを作らせてはどうか。こういうピアノトリオこそ、世に知られるべきだ。
*1 たとえば"Lark's Tangue In Aspic Part2"は3/8+2/8で5拍子
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