題名だけ見ると、まるでSF映画のように感じられるが、舞台は第2次世界大戦中のナチスドイツ占領下のフランス。そこで起こったユダヤ人の大量検挙が主題である。
1940年、ヒトラーの電撃作戦の前にもろくも敗れ去ったフランスは、第1次世界大戦の英雄であるフィリップ・ペタンを首相に据えた傀儡政権をヴィシーに樹立させられ、4年にわたるドイツ占領を経験した。占領はたったの4年だったが、この間のドイツによる占領政策は、実質的な略奪行為と言っても過言ではなく、町という町からありとあらゆる物資が戦時徴収され、食料は言うに及ばず、ガソリンや鉄鋼などの資源、ひいては軍靴に使う皮革までもが不足し、庶民は木靴をはかなければならなかったという。このあたり、『ナチ占領下のパリ』という本に詳しい。
そして、占領政策の悲惨を極めたのが、ユダヤ人政策である。ユダヤ人はすべて胸に黄色いダビデの星を縫い付けた服を着用することを義務づけられ、少しでも星を隠そうものなら、容赦なく検挙された。ユダヤ人商店にもダビデの星が描かれ、フランス人達は隣人にこれほどまでユダヤ人がいたことに驚いたという。やがてユダヤ人への仕打ちは公民権の停止へと至り、「ユダヤ人問題の最終解決(=民族浄化)」が決定されると、フランスでもユダヤ人の検挙が始まった。その頂点が、映画で描かれる1942年7月16日の早朝に行われたヴェル・ディヴの大量検挙である。
ユダヤ人達は胸に黄色いダビデの星を付けさせられ、公共施設への 入場を制限された。しかし、それでも検挙まではまだ無邪気でいられた。 |
この映画は、その顛末を子供達の視点から描いている。戦時下の厳しい状況にあっても、家族や友人との幸せな毎日を送る子供達に、なぜ自分たちが差別されなくてはならないのか、家族はどうなるのかという辛苦が押し寄せる。幼い子供達から見る差別の理不尽と対置されるのは、フランスの政治家達の打算である。ドイツ側が当初、子供は強制収容の対象としないと言ってきたにもかかわらず、孤児の面倒を見ることは不可能という政治的判断のため、子供までもがガス室送りになった。しかも、政治家達は東欧難民のユダヤ人を減らす好機としてこの機会を利用し、さらにフランス警察の権益確保の交換条件まで交わしたのだ。
命令を破りヴェル・ディヴで放水を行い、水を供給する消防団たち。 |
子供たちも大人と同様の強制収容の対象となった。真ん中が 主人公のジョセフ・ヴァイスマン。 |
一方で、ユダヤ人差別に抗するがごとく、強制収容所にまで付き添ってユダヤ人医師(ジャン・レノ)と共に病人の看護に当たる、非ユダヤ人看護婦アネット(メラニー・ロラン)も描かれる。ヴェル・ディヴで命令を破ってまで放水で水を与える消防隊員や、検挙の前に警告を発する女性など、人間の尊厳を軽んじなかった人々も、少ないながら登場する。しかし、私たちの視点は彼らと同じだとしても、同じ境遇にいて、同じ事が出来るだろうか? 映画を見ながら、組織的の命令が個人の良心に何ら抵触することなく、暴力を実行させることの恐ろしさを考えた。
強制収容所に送られたはずのノノと再会する看護婦アネット。 あれほど無邪気だったノノの顔にはもはや笑顔はない。 |
映画では非ユダヤ人にもかかわらず献身的な介護活動を続ける看護婦アネット役が光る。彼女はこの歴史的事実のあまりの重さに倒れてしまったこともあったそうだが、この歴史的事実を後世に伝えなければならないと、必死で演じきったという。
実を言うと、このサイトの名称、Les Zazousもこの占領下のフランスと関係があるのだが、その話はまた別の機会に。
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